産業用CTの倍率とは?幾何学拡大の計算と選び方

産業用CTのカタログで目にする倍率(幾何学的拡大率)の意味やどのように拡大されるのかという仕組み、そして画像のボケを抑える焦点サイズとの関係について解説します。幾何学的拡大率が対象物との距離に依存するという基礎知識を理解することは、自社の検査用途に適した装置選びに役立つでしょう。

産業用CTの「幾何学拡大」とは?

産業用CT装置のカタログスペックを比較する際、よく目にするのが幾何学拡大という言葉です。光学顕微鏡やカメラのように、レンズを用いて対象物を拡大するのとは仕組みが異なります。

産業用CTには拡大用のレンズが存在せず、X線の直進性と放射状に広がる性質を利用した幾何学的な拡大が行われています。物理的な位置関係によって拡大されるという、技術的な大前提を押さえておきましょう。

影絵と同じ「近づけると大きく映る」仕組み

幾何学的拡大の挙動は、身近な影絵を想像すると分かりやすいでしょう。暗い部屋で壁(スクリーン)に向かって手をかざし、その後ろから懐中電灯(光源)で照らす状況をイメージしてください。光源に手を近づけるほど、壁に映る手の影は拡大します。

産業用CTも同様に、X線源(光源)に対象物(手)を近づけるほど、検出器(スクリーン)に投影される透過画像が大きく拡大される物理的挙動を利用しています。

幾何学拡大率を決定する「2つの距離」

産業用CTにおいて拡大倍率を正確にコントロールして算出するためには、装置内における対象物と検出器の配置がポイントです。レンズの性能ではなく、装置の限られたスペースの中で対象物をどこに配置し、検出器がどこにあるかという物理的な距離のバランスが、画像の倍率を決める本質的な仕組みです。

撮影を行う際の2つの主要な距離の比率が大きく関わっています。

倍率計算の基本となる「FOD」と「FDD」の定義

倍率を算出するために必要な2つの距離の定義は以下の通りです。

  • FOD(Focus to Object Distance):X線源の焦点から対象物(ワーク)までの距離
  • FDD(Focus to Detector Distance):X線源の焦点から検出器(センサー)までの距離

装置の中で、X線が発生するスタート地点から対象物までの距離と、ゴールである検出器までの距離が、物理的にどう配置されているかを示しています。

拡大倍率を求める基本計算式「FDD÷FOD」

幾何学的拡大率はFDD÷FODという計算式で求められます。数式が示すのは、距離と倍率のダイナミックな関係です。FODを小さくする(対象物をX線源に近づける)ほど分母が小さくなるため、倍率は高くなります。

逆に、FDDを大きくする(検出器を遠ざける)ほど分子が大きくなり、倍率が高まる仕組みです。つまり、X線源に近づき、検出器から遠ざかるほど、画像はより大きく投影される理屈になります。

幾何学的倍率とモニター上倍率の違い

カタログスペックを比較する際、幾何学的最大倍率とモニター上最大倍率を混同しないように注意が必要です。幾何学的最大倍率は、装置内のFODとFDDの物理的な配置限界から定まる、装置本来の物理的な拡大限界値を示しています。

一方のモニター上最大倍率は、取得したデータをパソコンの画面サイズや表示解像度で引き伸ばしたソフトウェア上の表示倍率です。画面上の拡大表示はモニター環境で変動するため、装置の解像能力を比較する際は必ず幾何学的倍率を基準に確認しましょう。

幾何学的に拡大するほど「画像のボケ」が強まる理由

ここまでの説明で、対象物をX線源に限界まで近づけて倍率を上げれば良いと考えるかもしれません。しかし、幾何学的拡大には、倍率を高めるほど画像のピントが合わなくなり、輪郭がボケてしまう物理的な制約があります。次項では、ボケが発生する仕組みを解説します。

倍率を上げるほど輪郭がにじむ「半影」の仕組み

高倍率撮影を行うとボケが生じてしまうのは、X線源(焦点)が完全な点ではなく、わずかな面積を持っているためです。対象物をX線源に近づける(高倍率にする)ほど、面積を持った光源の端から投影されるX線の角度が大きくなります。

その結果、本影の周りに半影と呼ばれる不鮮明な領域が生じ、検出器に投影される輪郭のにじみが相対的に目立ってしまうという幾何学的な現象が起こります。

ボケを抑えて鮮明に映し出す「焦点サイズ」の影響

対象物をX線源に近づける幾何条件において、輪郭のボケ(半影)を小さく抑えるためには、根本的な光源の小ささである焦点サイズがポイント。光源そのものが小さければ小さいほど、投影時の幾何学的な不鮮鋭さが小さくなり、半影の発生を抑えることができます。

X線源の焦点サイズの種類や
ボケを抑える仕組みについて
詳しく見る

自社の用途に合った産業用CTを選ぶポイント

装置選定で失敗しないためには、カタログ上の最大倍率の数値だけで判断しないことが大切です。以下の4つの物理要素を掛け合わせ、自社の用途に合ったバランスを見極めましょう。

  • ワークサイズ:大きい対象物は物理的にX線源に近づけられない(FODを小さくできない)ため、高倍率が出せない構造的制約がある
  • 欠陥サイズ:検出したい微細欠陥(数μmのクラックなど)の大きさに応じて、求める焦点サイズや倍率が決まる
  • 必要倍率:対象物の大きさと求められる欠陥の小ささから逆算される、現実的な物理的倍率である
  • 焦点サイズ:高倍率時にもボケ(半影)を抑え、鮮明に透過・計測できるかを左右する重要な要素である

自社の検査目的を明確にし、現場で実用的な1台を選定することが求められます。

検出したい欠陥サイズと求められるスペック

検査対象によって、必要十分な倍率や分解能のスペックは異なります。例えば、サブミクロン単位の微小なはんだクラックや先端電子部品の解析が目的であれば、非常に小さな焦点サイズを備え、かつ対象物との干渉を防ぎつつFODを極力小さくして高倍率に拡大できる幾何学配置の装置が欠かせません。

一方、全体の寸法測定やアルミダイカストの比較的大きな鋳巣の検出では、ワーク自体が大きいため光源に近づけられず、倍率は低く抑えられます。大物の日常検査には、過剰な拡大性能を求めるよりも、対象物の材質や厚みに応じて十分な透過力を得られる出力を備えた装置の方が適しているケースもあるでしょう。

SUMMARYまとめ
検査目的に適した倍率と焦点サイズで装置を選ぶ

産業用CTの選定では、最大倍率だけを基準にするのではなく、自社の日常検査の目的に応じて、必要十分な倍率や焦点サイズを備えた装置を選ぶことが大切です。アルミダイカストの巣の確認なのか、微細基板の断線解析なのかで、求められるスペックは大きく変わります。実際のワークで倍率や画質を確認しながら、自社の用途に合った装置を選定することが、導入後のミスマッチを防ぐポイントです。

当メディアでは、検査したい対象物や目的に合わせて、独自の視点で産業用CTメーカーを調査・ピックアップしています。焦点サイズや管電圧といったスペック面も踏まえ、導入の検討材料として合わせてご確認ください。

導入未定でも大歓迎です。
まずは「どんな風に見えるか」各社のテスト撮影等をご検討ください。

撮影対象物から探す
産業用CT3選
アルミなどの軽金属や
プラスチック成形品など
低密度で透過しやすいなら
NAOMi-CTシリーズ
アールエフ
NAOMi-CTシリーズ
画像引用元:アールエフ公式HP
(https://rfsystemlab.com/product/industry/ct/280_380ct.html)
NAOMi-CT
Mサイズのスペック※2
最大管電圧 100kV
撮影サイズ※1 Φ151×H63~82mm
耐荷量 約10kg
本体サイズ 623×310×300mm
おすすめの理由
卓上サイズでその場で撮影可能
低価格で導入しやすいモデル
  • 卓上サイズ・シンプルな設計により308万円(税込/Mサイズ)と導入しやすい価格。工事をせずに研究室や事務所に設置できる。
  • 簡単な操作でその場で撮影・確認が可能。100kVの管電圧によりアルミ・プラスチック製の商品開発や考古学研究に活躍。
マルチマテリアルや
複雑形状部品など
部分ごとに厚みや材質が異なるなら
ZEISS METROTOMシリーズ
カールツァイス
ZEISS METROTOMシリーズ
画像引用元:カールツァイス公式HP
(https://www.zeiss.co.jp/metrology/systems/x-ray/3d-x-ray/metrotom-800-320-kv.html)
ZEISS METROTOM
1500 225kVのスペック
最大管電圧 225kV
撮影サイズ※1 Φ615×H800mm
耐荷量 50kg
本体サイズ 3700×1810×2440mm
おすすめの理由
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精密なCTスキャンができる
  • 測定室・品質管理室での運用を想定。密度が高めの異材質混在部品や精密部品の品質保証に特化。
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溶接構造部品など
高密度で透過しにくいなら
UXシリーズ
コメットテクノロジーズ・ジャパン
UXシリーズ
画像引用元:コメットテクノロジーズ・ジャパン公式HP
(https://yxlon.comet.tech/ja/products-ja/ux50)
UX50のスペック
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撮影サイズ※1 Φ600×H800mm
耐荷量 100kg
本体サイズ 2250×1770×2350mm
おすすめの理由
高出力・撮影可能範囲が広く
大型・高密度のワーク撮影に強い
  • 工場内や検査エリアで扱われる大型・高密度な鋳物部品や厚肉構造物に対し、高電圧による高い透過力で内部撮影が可能。
  • 広い視野で大型のワークでも全体を一度に把握することができ、欠陥の位置関係の把握や厚肉・高密度部の状態確認に対応。

電話番号は公式サイトに記載がありません

※1:撮影サイズについては、NAOMi-CT・UX50は「最大スキャンサイズ」、ZEISS METROTOMは「精度保証条件下での測定範囲」を掲載しています。
※数値はいずれも撮影・測定条件により変動しますので、詳しくは各社にお問い合わせください。
※2:NAOMi-CTは、Mサイズ、Lサイズ、スライドLの3種類があります。